2024年11月22日 物流の基礎知識
【12月15日発効】英国CPTPP加盟がもたらす日本への輸入メリット
2024年12月15日、英国がCPTPP(環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定)に正式に加盟することが発表されました。この動きは、CPTPP締約国における貿易政策に大きな影響を与えるとともに、企業や消費者にとっても様々なメリットをもたらすことが期待されています。今回は、CPTPPの概要から英国の加盟プロセス、そして、英国から日本への輸入におけるメリットやポイントについて、詳しく解説していきたいと思います。
<CPTPP(環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定)とは?>
CPTPPは、貿易の自由化や経済の発展を目的とした、環太平洋地域の国々が参加する自由貿易協定(FTA)のことです。元々はTPP(環太平洋経済連携協定)として知られていましたが、2017年に米国が協定から離脱後、残りの国々で協定を再構築し、2018年にCPTPPとして新たに発効されました。この協定では、関税の削減、貿易の円滑化、投資の促進、知的財産権の保護など、多岐にわたる分野でのルールが定められています。
<CPTPPの加盟国は?>
現在、ニュージーランド、オーストラリア、ブルネイ、カナダ、チリ、日本、マレーシア、メキシコ、ペルー、シンガポール、ベトナムを含むアジア太平洋地域の11カ国が参加しており、今回、英国が加わることで、12ヵ国間での自由貿易協定が結ばれることとなります。これにより、CPTPPは、人口合計 約5.8億人*、GDP合計 約14.7兆ドル*、貿易総額 約8.7兆ドル*に迫る巨大経済圏となり、国際貿易における更なる重要な役割を担うこととなります。
*数値は、以下内国官房作成資料に掲載された2022年値を引用
(引用)内国官房作成資料
https://www.cas.go.jp/jp/tpp/tppinfo/kyotei/tpp11/pdf/2411cptpp_gaiyou_koushin.pdf
以下は、英国とCPTPP加盟国との貿易額データです。 このデータから、大まかな貿易規模を把握頂けるかと思います。
(引用) ジェトロビジネス短信
https://www.jetro.go.jp/view_interface.php?blockId=38359110
<英国がCPTPPに加盟に至った背景>
2020年に英国がEUから離脱し、2021年には日本との間で日英EPA(日英包括的経済連携協定)を締結しました。この協定は、英国と日本の二国間における貿易を円滑化する重要なステップとなりましたが、今回のCPTPP加盟により、アジア太平洋地域全体との貿易強化と経済の発展に繋がることが予想されます。
今回のCPTPP加盟の承認プロセスにおいて、“英国及び6か国以上のCPTPP締約国が国内手続きを完了させ最後の締約国がその旨を書面により寄託者に通報した日の後60日で発効する”と要件が定められていますが、今年の10月16日、英国に加えて8か国(日本、シンガポール、チリ、ニュージーランド、ベトナム、ペルー、マレーシア、ブルネイ)が英国加盟の承認における国内手続を完了したことから、12月15日に正式に制度が発効する運びとなりました。
<英国から日本への輸入上のメリット(日英EPAとの比較)>
メリットその1 関税率
最も分かり易いメリットとして、英国から日本への輸入品に対する関税の削減が挙げられます。多くの品目において、日英EPAと同等の税率が適用されることとなりますが、一部品目においては、日英EPAとCPTPPで異なる税率が設定されている為、いずれの経済連携協定を利用するか、適切に見極める必要があります。
なお、これは豆知識ですが、CPTPPと日英EPAでは、従価税の端数処理の方法が若干異なります。日英EPA では“小数点第2位以下を四捨五入する方法”で統一されているのに対し、CPTPPでは”原則0.1%単位に切り捨てる方法”で統一されており、結果、関税率に差が生じる(=CPTPPの方が、関税率が下がる)ケースがありますので、頭の片隅に置いておかれるとよろしいかもしれません。
(引用)JETRO:日英EPA解説書
https://www.jetro.go.jp/ext_images/world/europe/eu/epa/pdf/jpuk_epa.pdf
(引用)JETRO:TPP11解説書
https://www.jetro.go.jp/ext_images/theme/wto-fta/tpp/TPP11_kaisetsu.pdf
メリットその2 原産地規則
輸入貨物に特恵税率を適用するためには、”原産地規則”という基準を満たす必要があります。英国のCPTPP加盟は、この観点からも大きなメリットをもたらします。
原産地規則の一つに”積送基準”があります。この基準では、原則として、”貨物が輸出国から輸入国へ直送されている”必要があります。そのため、日英EPAでは、英国から日本への輸送途中で第三国を経由し、貨物に加工などが施された場合、直送条件を満たさないため特恵税率を適用できません。
一方、CPTPPのような広域FTAでは、加盟国内の全域をCPTPP原産とみなすため、CPTPP域内の第三国で加工が行われたとしても特恵税率の適用が可能です。これにより貿易の柔軟性が高まり、企業にとってはコスト削減の機会が拡大することになります。
<CPTPPを利用する際の注意事項>
では、12月15日に英国のCPTPP加盟が発効されるとして、どのように制度を利用すればよいのでしょうか。
制度の適用対象となる貨物について、税関HPに以下の通り案内がございますので、ご参考ください。
-----------------------(引用)-----------------------
CPTPPにおける英国加入議定書が効力を生ずる日(2024年12月15日)に日本に輸送中の貨物、又は、既に日本に到着し保税地域に蔵置されている貨物を、CPTPPにおける英国加入議定書が効力を生ずる日(2024年12月15日)以後に輸入申告する場合、必要なEPA税率適用要求手続が行われることを条件として、EPA税率の適用が可能となります。
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(引用)税関HP 2024年10月28日時点の情報
https://www.customs.go.jp/roo/text/tpp_uk.html
なお、特恵税率制度を利用するためには、”輸入貨物がEPAの適用基準を満たしていることを証明する資料”を提出する必要があります。
CPTPPでは、日英EPAと同様に自己申告制度が採用されています。自己申告制度とは、輸入者、輸出者または生産者のいずれかが原産品申告書を作成し、原産性を証明するという制度です。
原産品申告書の見本様式は税関ホームページで公開されていますが、日英EPAとCPTPPでは様式内容が一部異なるため、それぞれの協定に対応した様式で資料を準備する必要があります。
(引用)税関HP
chrome-extension://efaidnbmnnnibpcajpcglclefindmkaj/https://www.customs.go.jp/roo/procedure/ichiran.pdf
<さいごに>
英国のCPTPP加盟は、貿易の新たな可能性を切り開く重要な要因となります。企業にとっては、コスト削減や新たな市場へのアクセスが期待される一方で、貿易上のルールの理解や適切な判断が求められます。
私たち商船三井ロジスティクスは、英国にも自社拠点を構えており、CPTPPを始めとする最新の物流情報のご提供から、スムーズな輸送手配まで、一貫したサービスをご提供可能です。
輸送に関するご質問やご相談がございましたら、ぜひともお気軽にお問い合わせください。