2024年5月10日 物流の基礎知識
国際輸送の貨物に「貨物保険」を必ずかけましょう!
物流会社から 「貨物にダメージが発生し、中身が破損していました。」 といった連絡が来たことはありますでしょうか。 貨物の荷主としては有難くない連絡上位に入るでしょう。 さて、どうしましょう? となった際、「貨物保険」を掛けていることで補償を受けられる可能性があります。 今回はその「貨物保険」について説明します。
<貨物保険とは?>
前回のブログで運送約款をご説明しましたが、運送約款上では事故が発生した際に補償される金額には上限が設定されています。 そこで、登場するのが貨物保険です!
国境を超える国際輸送では、何千kmという長距離の輸送時や、コンテナやトラックへの積替え時には、潰れや破れ、海水・雨水の侵入による水濡れ、盗難などの損害や、その他トラブルが起こりえます。
貨物保険は、空・海・陸の輸送中に起きるさまざまなトラブルや事故のリスクに対して、輸出入の貨物を対象に付保される保険のことです。
貨物保険には3種類の保険があり、輸送モード、輸送範囲が国内外にまたがるかによって変わります。
- 外航貨物海上保険
国際間を航空・海上・陸上輸送する貨物を対象とした保険 - 内航貨物海上保険
日本国内を船舶輸送する貨物を対象とした保険 - 国内運送保険
日本国内を航空・陸上輸送をする貨物を対象とした保険
国際輸送に焦点を当て説明していくため、このブログでは「外航貨物海上保険」について説明していきます。
<補償内容>
補償する内容は危険によって異なり、貨物保険には「海上危険」、「ストライキ危険」および「戦争危険」の3種類があります。
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海上危険 (Marine Risks)
海上危険とは、輸送中における船舶の沈没・座礁、火災・衝突等の輸送用具の事故のリスク、暴風雨・落雷等の自然災害のリスク、荷卸時の破損、盗難等の人為的なリスク等の総称を表します。
外航貨物海上保険では、貨物保険において代表的な保険条件の協会貨物約款(Institute Cargo Clauses: 以下、ICC)の内容により補償されます。
この約款にはICC(A)、ICC(B)、ICC(C)と3つの基本条件があり、それぞれ保険金をお支払いする場合の危険が異なります。
※共同海損(General Average)とは、船舶が航海中に海難事故(座礁、座州、火災、浸水、衝突等)に遭遇した際、船舶・積荷などの共同の安全を図るため船長の判断で緊急処置をとり、異常な費用を支出した場合に、これらの損害や費用を、当該船舶を利用した全ての荷主で公平に按分しそれぞれが負担しようとするものです。
表をご覧の通り、ICC(A)が最も補償内容が広く、保険付保時によく選ばれております。
損害が発生していても、保険金をお支払いしない場合もあります。 以下ご紹介するものは極一部となり、これら以外の理由については、協会貨物約款・特約の「保険金をお支払いしない場合」等の項目に記載されておりますので、詳細はそちらを必ずご確認ください。
- 故意・違法行為による損害
- 梱包または梱包準備の不完全・コンテナ内への積付不良による損害(ただし、危険開始後に“被保険者もしくはその使用人”以外の者によって行われる場合も除きます。)
- 貨物固有の瑕疵(かし)または性質による損害(自由の消耗、通常の減少、発汗、蒸れ、自然発火、腐敗、変質、錆び等)
- 航海、運送の遅延に起因する損害
- 間接費用(慰謝料、違約金、廃棄費用、残存物取片付け費用等)
- 貨物が陸上にある間の戦争危険による損害
- 原子力・放射能汚染危険による損害
- 化学・生物・生物化学・電磁気等の兵器による損害
- 通常の輸送過程ではない保管中等のテロ危険による損害
- 船舶の所有者、管理者、用船者または運航者の支払不能または金銭債務不履行による滅失、損傷または費用(ただし、被保険者がそのような支払不能または金銭債務不履行が、航海の通常の遂行を妨げることになり得ることを当然知っているべきである場合に限ります。)
- 被保険者が事業者(個人事業主を含む)である場合に、直接であると間接であると問わず、サイバー攻撃によって生じた損害
※出典:三井住友海上 外航貨物海上保険「保険条件」より
2. 戦争及びストライキ危険(War & Strikes Risks)
戦争およびストライキ危険とは、輸送中の貨物が戦争、内乱、反乱等によって損害を被るリスクや、労働者のストライキ・暴動等のリスクのことを表します。
戦争・ストライキ危険は協会戦争約款(Institute War Clauses (以下、IWC))、協会ストライキ約款(Institute Strike Clauses (以下、ISC))で補償されます。
該当する国、保険料率は適宜保険会社により更新されており、世間的に戦争・ストライキが起きている国でも、補償外となり得る国も存在しますため、付保時に予め確認が必要となります。
それぞれの補償内容は以下の通りです。
- 協会戦争約款(IWC)
戦争、内乱、革命、謀反、反乱 | 〇 |
上記から生じる国内闘争、捕獲・拿捕(だぼ)・拘束・抑止または拘留 | 〇 |
遺棄された機雷・魚雷・爆弾またはその他遺棄された兵器 | 〇 |
- 協会ストライキ約款(ISC)
ストライキ、職場閉鎖、労働紛争、騒擾(じょう)もしくは暴動 | 〇 |
一切のテロ行為 | 〇 |
政治的、思想的または宗教的同期から活動する者による損害 | 〇 |
ストライキ・職場閉鎖・労働争議・騒じょうもしくは暴動から生じる労働者の不在、不足または引き上げから生じる滅失、損傷または費用 | ✖ |
<保険期間とインコタームズ>
実は国際的な取引で使われる「インコタームズ」は、売主買主のどちらが保険手配を行うかについても決められています。 外航貨物海上保険の保険期間は、その保険手配、および貨物の危険負担がどこで移転するかによって定まります。
濃い青色:売主である輸出者が物流費用を負担する範囲
水色:買主である輸入者が費用を負担する範囲
黄色の点:貨物の危険負担がうつるポイントであり、輸入者の自己の責任の範囲
また、<補償内容>で説明した「海上危険」「ストライキ危険」および「戦争危険」によって保険期間が異なります。
- 海上危険・ストライキ危険
海上危険・ストライキ危険の保険開始、終了期間は「A地点を出発してからB地点に到着するまで」と決まっております。
輸出の場合、貨物が指定された工場や倉庫において、輸送用具への積込みのため最初に動かされたときから開始し、通常の輸送過程を経て、目的地の倉庫において輸送用具から荷卸しが完了したときまでの輸送区間で期間終了となります。
輸入の場合、貨物の危険負担をした時から始まり、終了は輸出と同じく、輸送用具から荷卸しが完了したときまでとなります。
例として、FOB/CFR条件で輸入した場合、「仕出地において、貨物が本船に積込まれた時」に危険負担が移転するため、保険期間もそこで開始となります。
ただし、以下の場合は、輸送途中であっても保険期間は終了します。
- 仕向地の最終倉庫または保管場所において輸送車両または他の輸送用具からの荷卸しされたとき
- 貨物の分配・仕分け等のために倉庫または保管場所で輸送用具から荷卸しされたとき
- 通常の輸送過程にあたらない保管を行うため、倉庫または保管場所で輸送用具から荷卸しされたとき
- 外航本船から荷卸し完了し、60日経過したとき(航空機輸送の場合は、荷卸し後30日経過)
2. 戦争危険
海上危険・ストライキ危険と異なり、戦争危険の保険期間は貨物が外航本船(または航空機)に積込まれている間のみとなります。 その貨物が陸上にある間は補償外となります。
<貨物の保険金額>
外航貨物海上保険の補償内容、期間を理解したところ、では保険会社へお支払いする金額はどう決められているのでしょうか?
保険会社にお支払いする金額(=保険料)は、保険金額 × 保険料率 で算出されます。
保険金額は、インボイスに記載されている「CIF価格※ x 110%」 で決められます。
この「110%」は世界的な商習慣に準えたものとなっており、インコタームスでも保険金額は売買契約に定められた代金にその10% を加えた金額とすべきことが規定されているため、110%をかけることが基準とされています。
保険料率とは、保険料を算出するための割合であり、貨物の内容、航路、輸送の季節等の条件によって異なります。 通常、保険料率は0.3% ~ 0.5%の間で定められていますが、地域によって、戦争危険やストライキ危険料率を課される場合もあります。
保険料には最低金額が決められており、料率を基に算出された保険料が3,000円未満の場合は3,000円のお支払い、3,000円以上の場合はその金額のお支払いとなります。
では、例として保険料を計算してみましょう!
CIF価格 1,000,000円 保険料率 0.4% |
保険金額: 1,000,000円 x 110% = 1,100,000円
保険料:1,100,000円 x 0.4% = 4,400円
保険会社へお支払いする保険金額は4,400円となります。
皆様も同じ結果になりましたでしょうか?
※CIF価格 = 船積原価+保険料+運賃
外航貨物海上保険の保険金額は、貨物の到達地の価格を基準としてその10%アップで設定することが一般的です。到達地の価格とは、商品の原価に海上輸送の運賃と海上保険料を加算した金額の、CIF金額といわれているため、CIF金額を使用されています。
<まとめ>
輸出入に携わっている企業の方々、これから輸出入を計画されている方々にとって、少しでも外航貨物海上保険についての理解が深まる一助となれば幸いです。
「お家や自動車だけでなく、国際輸送している貨物にも実は保険をかけているのですよ。」とご近所に説明できることでしょう。
貨物保険をかけることでリスクがなくなるということにはならないですが、保険をかけることで万が一トラブルがあった際の助けとなり、求償の手配も スムーズとなります。
もちろんお客様の大切な貨物に関わる全ての運送業者は、常に安心・安全な輸送を心掛けて運んでおります。
弊社商船三井ロジスティクスでも、充実した海外ネットワークを駆使し、安心・安全な輸送を実施しております。輸送をご予定している際、お気軽にお問い合わせいただけますと幸いです。